矢島の竪琴

 修学旅行、三日目。
 待ちかねていた、班ごとの自由行動となり、生徒たちは思い思いの場所に散っていった。
 さてここは、札幌市の郊外、羊ヶ丘。
 浩之、あかり、雅史の班は他の2班と一緒にここにやってきた。
「はいみんな、笑って!」
 カメラのセルフタイマーをセットした浩之が、小走りで列に戻る。ピッピッピッ・・・カシャッ!カメラのシャッタ−が下りた。
「あれ?矢島くんがいないよ?」
 あかりが、気が付いたように言った。矢島は一緒のここに来た班のメンバーだ。
「どうしたんだろ?トイレかな?」
 浩之が言った。
「だけど矢島、最近元気ないって言うか、ふさぎこんでたみたいだったな。何かあったのかな?」
 生徒の一人が言う。
「あいつには悪いことしちゃったけど、仕方ねーよな」
「そうだよね・・・」
 みんなに聞こえないように、浩之とあかりが言った。そう、二人は幼馴染みから恋人になったのだが、結果として、あかりが矢島を振ることになってしまったのだ。
「矢島が戻ってきたら、もう一回撮るか・・・ん?あれは・・・?」
 言いながら浩之は、何気なく向こうに目をやると・・・
「矢島!?」
 夕霧の中に、立っていたのは矢島その人だった。
「お前、なんだそのかっこうは!」
 矢島はまるで、ラマ僧のような姿かっこうをしていた。
「どうしたんだ!矢島!」
「矢島くん!!」
 みんなは駆け寄ろうとするが、柵にはばまれて先に行くことができない。
「・・・・・・」
「矢島くん!?」
 矢島と目が合ったあかりが、思わず声を出した。矢島はじっと、あかりを見つめている。
「・・・一緒に・・・」
「えっ?」
「・・・一緒に・・・帰るわけにはいかない・・・」
 矢島は悲しげな声で、静かに言った。あたりを静寂がしばらく包む。
「矢島ーっ!!一緒に東京に帰ろう!!」
 浩之がありったけの大声で叫んだ。しかし、何の返事もない。悲しげな目をして、こちらを見ているだけだ。
 再び静寂がしばらく続いた。が、やがてあたりに美しい竪琴のメロディーが流れた。竪琴を弾いているのは矢島だ。
 
 埴生(はにゅう)の宿も わが宿
 玉の装(よそ)い うらやまじ
 のどかなりや 春の空 
 花は主(あるじ) 鳥は友
 おお わが宿よ
 楽しとも たのもしや
 書(ふみ)よむ窓も わが窓
 瑠璃(るり)の床も うらやまじ

 そこにいるもの全てが、いつのまにか竪琴に合わせて歌っていた。
 竪琴を弾き終わると、矢島はみんなに背を向け、夕霧の中に消えていった。
「矢島、戻って来い!!」
「矢島くん!!」
「矢島!!」
 薄れゆく彼の姿に向かって飛ぶ、クラスメイトたちの悲痛な叫びは、やがて・・・。
「いいかげんにしなさいよ!!」
「先生に言うわよ!!」
「単独行動すんじゃねえっ!!」
「連帯責任なんだよ!!」
 罵声に変わっていった。
 続いてあかり、浩之も叫んだ。
「みんな怒られちゃうよ〜!」
「矢島!!後でひどいからな!!」

 おしまい

あとがき

To Heart二次創作、第一作です。
KIMさんの、『にわか書店』に、寄贈させて頂きました。
この作品はフジTV『笑う犬の冒険』の中でやっていた『奈良の竪琴』というコントが元ネタです。
日本映画『ビルマの竪琴』をパロディにしたコントに大笑いして、To Heartでパロディをやってみました。
元ネタがわからなかったらすみません。
挿し絵があったらもっと面白いかな、と思いましたが、時間がないのであきらめました。

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